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     甲状腺がん体験記 (1)

まずは、甲状腺がんの基礎知識    /  波多江伸子  (2010.11.05)
Profile
「がん・バッテン・元気隊」代表・作家。医療倫理学研究者。
1948年、福岡市生まれ。団塊の世代です。
長い患者ライフとピアサポート体験を生かして、患者の立場に立った医療倫理学を専門に、大学医学部や看護学科、市民講座などで講義や講演をしています。
家族は、夫と息子と犬と猫。
Clinical History
最初の甲状腺がんは33歳。
再発したのは、なんと20年後の53歳でした。
糖尿病患者でもあり、1日4回のインスリン注射が欠かせません。内分泌系が弱い体質なんでしょうね。
甲状腺ってどんな器官?
 甲状腺は首の前面、つばを飲み込むと上下に大きく動く部分にあり、蝶が羽を広げたような形をしています。
男性は、女性より位置が低くて、喉仏の下あたり。

 甲状腺は、新陳代謝や心臓の脈拍、腸の運動などを調節する大切な内分泌器官です。脳下垂体からの指令で甲状腺ホルモンを生産する工場の役割を担っています。性ホルモンと違って一生必要なホルモンですから、手術で全摘すると、甲状腺ホルモン剤を生涯飲み続けなくてはなりません。
私も、「チラージン」という薬を、もう30年以上飲んでいます。最初は、薬を飲み続けることに抵抗がありましたが、慣れてくると食後の歯磨きより簡単。
この薬には幸い、副作用はありません。

 甲状腺ホルモンが過剰になると、心臓はドキドキ、体温は上昇して汗ぐっしょり、いつも全力疾走しているような状態になります。
いくら食べてもやせていて、なんだかイライラせかせかした感じ。眼球が突出して独特の目つきになったりします。
 昔は「バセドー氏病」と呼ばれていました。今は「バセドウ病」。
機能低下すると、むくんで、頭も働かずぼんやりしてきます。脈は遅くなり、動きも鈍くなって疲れやすくなります。橋本病は自己免疫疾患で、甲状腺炎を起こし機能低下症になります。
 橋本病も含めて甲状腺の病気は、圧倒的に女性に多いのが特徴です。乳がん検診と一緒に甲状腺検診もできたらいいですね。
甲状腺がんもいろいろ
 甲状腺がんは甲状腺にしこりができる以外には、特に機能に特徴的な変化はありません。サイログロブリンという腫瘍マーカーもありますが、良性の腫瘍でも上昇するので決定的な検査ではありません。
 ちなみに、うちの夫も数年前、巨大な甲状腺腫瘍ができて甲状腺を全摘しました。夫の場合は良性でしたが、腫瘍マーカーが桁違いに上昇していました。
 結局、良性でも全摘すれば、ホルモン補充療法をしなくてはなりません。夫婦で仲良く、甲状腺ホルモン剤を一生飲むことになりました。

 甲状腺の悪性腫瘍には「乳頭がん」「濾胞(ろほう)がん」、「髄様(ずい)がん」「低分化がん」「未分化がん」「悪性リンパ腫」など幾つかのタイプがあり、どのタイプのがんかによって治療も予後も、患者としての心構えも変わりますので、まず自分のがんの細胞型を医師から教えてもらいましょう。
(最近は、細胞検査士からも詳細が教えてもらえるようになっています)。
乳頭がんと濾胞がん
 日本人がかかる甲状腺がんの90%近くが「乳頭がん」と呼ばれる、進行の遅いおとなしいがんです。
 甲状腺がんでは5年生存は当たり前なので、予後は10年生存率で表します。遠隔転移を起こしていない乳頭がんの10年生存率は92%です。もしかして95%かも。
 要するに、死なないがんの代表格です。

 「濾胞がん」も、同様におとなしいタイプですが、乳頭がんが局所のリンパ節転移を起こしやすいのに対して、「濾泡がん」は血流に乗って肺や骨に転移しやすいようです。「濾胞がん」は、一見したところ良性腫瘍と区別がつかず、細胞診でもまだはっきりせず、手術で摘出して細胞検査をして初めて悪性と分かる、まぎらわしいがんです。

 「濾胞がん」は甲状腺がんの5%くらい。遠隔転移していなければ乳頭がんと同じくらいの生存率です。転移するとちょっと低くなるかな?でも、乳頭がんや濾胞がんは遠隔転移しても、やっぱりゆっくり進行しますし、放射性ヨードを内服する内照射療法がよく効きますからそんなに心配はありません。
 もう10年以上、年中行事のように毎年入院して肺転移の治療をし、普段はまったくお元気な濾泡がんの患者さんを知っています。
家族性の甲状腺がん
 「髄様がん」は、家族性(遺伝性)と、そうでない散発性の2種類があって、家族性の方が治りやすいようです。血中にカルシトニンというホルモンが出るので濃度を測定し、遺伝子検査をすればはっきり分かります。
 髄様がんは、研究が進んだがんなので、家族性であれば、遺伝相談をお勧めします。遺伝相談をどこで受けられるかは、甲状腺疾患の専門病院にかかって、確認してください。どこでも受けられるわけではありません。

 「乳頭がん」は遺伝しないと思われているようですが、実は家族性のものもあるんですよ。
 私の父も甲状腺がんでした。父の方が後になって見つかり、私より進行していました。それで7〜8年後に再発してリンパ節が梅の実くらいに腫れていましたが、「ワイシャツの襟に当たって邪魔だなぁ」と言う以外には、肺転移を起こすこともなく、82歳で天寿を全うしたときは前立腺がんが死因でした。
 わが家の甲状腺乳頭がん患者はまだ2人なので、遺伝性かどうかは分かりませんが(3人出れば90%の確率で家族性だとか)、80年以上も続く甲状腺疾患の専門病院には、「うちは親代々甲状腺乳頭がんでして・・」という患者さんもおられますよ。
「未分化がん」のこと
 まれにですが、甲状腺にも「未分化がん」という極めてタチの悪いがん細胞が発生します。これは身体にできるあらゆるがんの中で、最も悪性度が高いがんと言われています。
 ヨード摂取量の少ない欧米人に多く、幸い、海藻などを常食する日本人には少ないのですが、不運にも罹患する方は高齢者に多く、それまで持っていた乳頭がんが、長い年月を経て未分化がんに転化するケースが半分くらいあるそうです。女性に多い甲状腺疾患ですが、この未分化がんに限っては男性も同じくらいの頻度で発生します。未分化がんの進行は早くどんな治療にも反応しない厄介ながんです。

 発生頻度は甲状腺がんの1%〜3%と言われています。若い人のがんは進行が早いのでは?と心配される親御さんがありますが(私の親や夫も当時、それを心配していました)、甲状腺がんに関しては、若い方がむしろ安心なのです。
 でも、まれに乳頭がんの中に低分化の細胞が混じっていることがあり、これはちょっと心配です。手術後、がんを薄切りにして調べるので、低分化細胞が混じっているかどうかは分かるみたいです。被爆者の方で、このタイプの乳頭がんの患者さんを知っています。

 甲状腺にできる悪性リンパ腫(治癒率80%くらい)は、橋本病から出てくることがあるとのことですので、とにかく甲状腺の病気は専門医に治療してもらうことをお勧めします。そして、昔なじみの知り合いのように、病気とつかず離れず、仲良くしていってください。

 さて、下の顕微鏡写真は、「医療電子教科書MyMed」の「甲状腺癌」の項目から借用した甲状腺乳頭がんの細胞です。
 ひとつひとつの細胞に目玉のような核が封入されているのが分かります。形がおっぱいに似ているからでしょうか、乳頭がんと呼ばれています。
 がんとは言っても分化度の高い(つまり、正常細胞に近い)がん細胞です。ちなみに、私が再発した時は、別府の甲状腺専門病院で手術をしたのですが、これと同じ形の私自身のがん細胞を見せてもらい、退院の時、プレパラートに挟んだ標本をお土産にもらって帰りました。

甲状腺乳頭がんの細胞像/Copyright 2008 MyMed
 人的な体験記というより、甲状腺がんのざっくりした基礎知識を書いてみました。

 でも、私は、医師でも細胞検査士でも看護師でもなく、患者ですから、記述に正確さを欠くところがあるかもしれません。
 専門家の方々に、間違いの箇所や不明な部分をご指摘いただけるとありがたいです。